役員退職金(役員退職慰労金)とは?かかる税金や支給額の計算方法について
役員退職金の経理処理については、一般従業員の退職金と性質が大きく異なります。全額損金を算入して節税につなげるには、役員退職金の性質や手続きを十分に理解しておく必要があります。
役員退職金(役員退職慰労金)とは?
役員退職金は、取締役または監査役などの役員が何らかの事情によって退任した場合に支払われる退職金のことです。一般従業員の退職金と比べて長年の功績に対しての褒賞という意味合いが強いといわれています。
一般的な退職金との違い
一般的な退職金は、勤務先から「過去の勤労に対する対価」として従業員が受け取るものになります。各企業の就業規則などの退職金規定に沿って支給されます。
一方で、役員退職金は就業規則で定められることはなく、株主総会の決議を経て支給内容が決定されることが大半です。
役員退職金(役員退職慰労金)のメリット
役員退職金は損金算入することが認められています。経理上は所得が減ることになるため、その分節税につなげやすいといわれています。また、社会保険料の適用外であるため、この分について会社側は社会保険料の負担がありません。
一方退職する役員も、所得税法上の優遇措置が受けられるので、課税負担が少なくなります。
企業側のメリット:法人税を節税できる
役員退職金を導入する最大のメリットは、法人税などの節税ができることです。法人税は、以下の計算式で表されます。
法人税額=所得金額×法人税率 |
個人側のメリット:所得税の負担が軽減される
役員退職金が支給される役員は、その受給額について所得税が課税されます。計算式は以下のとおりです。
所得税=(退職所得金額-控除額×所得税率)×102.1% |
また、退職所得は分離課税方式が採用されており、退職所得のみに税率が適用されます。よって、元の控除分に加えてさらに低い税率で課税されるのです。
役員退職金(役員退職慰労金)の損金算入が認められる要件
税務署から否認され、役員退職金が損金不算入にされることがあります。ここでは、損金算入が認められる要件について解説します。
不相当に高額ではないこと
役員退職金の金額の妥当性は、退職事情や在職年数、同業種・同規模の競合他社の支給状況などと比較して判断されます。
特に、功績倍率法で算出した場合に倍率の数値が高倍率になっていると、税務調査で否認されたり、説明を求められたりすることがあるため注意しましょう。
親族などの「特殊関係使用人」への支給ではないこと
会社によっては親族などを役員に据えているケースも時折見られます。この際に、支給金額が不相当に高額だと、法人税法36条「過大な使用人給与の損金不算入」とみなされる恐れがあります。
役員退職金(役員退職慰労金)の適正額はいくら?計算方法や決め方
役員退職金の計算方法には「一年あたり平均額法」と「功績倍率法」があります。さらに、その役員が特別な功績を残した場合には、功労加算金が上乗せされるケースもあります。
1年あたり平均額法
1年あたり平均額法では、以下の計算式で役員退職金を求められます。
役員退職金=1年あたり退職金×勤続年数 |
1年あたり退職金とは、同種同規模の役員退職金の支給データをもとに算出した平均値です。なお、1年あたり平均額法は特別な事情に限り使われ、一般的な手法ではありません。一般的には、次項の功績倍率法が用いられます。
功績倍率法
功績倍率法は、以下の計算式で役員退職金を求められます。
役員退職金=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率 |
例えば、最終報酬月額が50万円、勤続年数35年、功績倍率が1.5倍で計算をすると、役員退職金は次のようになります。
50万円×35年×1.5=2,625万円 |
功労加算金の上乗せ
特に会社に功績を残した役員については、役員退職金とは別に功労加算金を上乗せできます。計算式は以下のとおりです。
功績加算金=役員退職金×30% |
役員退職金(役員退職慰労金)の支払いの手続き
ここでは、役員退職金を支払ううえで必要な手続きを解説します。
株主総会の決議
法令上は役員退職金の支給額に制限はありません。ただし、無制限に支給できるわけではなく、定款で定めるか、株主総会で以下の項目を決議しなければいけません。
- 支給の可否
- 支給方法
- 支給金額
実際には、取締役会に一任する旨の決議が行われることが多いです。
必要書類の提出
退職予定の役員が勤務先に提出する書類は以下です。
- 退職所得の受給に関する申告書
- 住民税の「給与所得者異動届出書」(特別徴収をした場合は不要)
また、企業が税務署などに提出を義務付けられている書類は下記のとおりです。
- 法定調書合計表
- 退職所得の源泉徴収票・特別徴収票
- 退職手当等受給者別支払調書(死亡退職の場合)
役員退職金(役員退職慰労金)でよくある質問
役員退職金(役員退職慰労金)の勘定項目の仕訳は?
「役員退職金(役員退職慰労金)」で仕訳を行います。退職給付会計の対象にはならないため、注意してください。
また、役員の退職に備えて引当金を設定する場合は、役員退職金引当金などの勘定科目を使用し、支給時に引当金を減額処理を行います。
役員退職金(役員退職慰労金)でかかる税金は?
所得税と住民税が課税されます。租税のベースとなるのは退職所得の金額です。また、住民税については、累進緩和措置を適用した退職所得金額に住民税率を掛けて税額算定されます。なお、退職所得控除額は勤続年数によって計算方法が異なります。計算の詳細は下表のとおりです。
事業者 |
退職所得控除額 |
20年以下 |
勤続年数×40万円(最低80万円) |
20年超 |
(勤続年数-20年)×70万円+800万円 |
退職金規定の作成は必要?
退職金規定の作成は不要です。一般従業員の退職金は、就業規則の退職金規定に基づいて支給されますが、役員退職金は定款への記載、あるいは株主総会の決議を経て支給されることになっています。
役員退職金(役員退職慰労金)を特別損失で計上するのはOK?
特別損失として計上するのがベターとされています。理由としては、頻繁に役員の退職が発生するものではないからです。仮に役員退職金を人件費や営業費用として処理すると金額が大きいため、営業利益や経常利益に影響を与えかねません。
役員退職金(役員退職慰労金)の平均相場はどのくらい?
2020年3月のエヌエヌ生命保険会社の調査によると、役員退職金の平均支給額は以下のようになっています。
社長:約2,476万円 |
ただし、同社が調査した全981社のうち、社長の役員退職慰労金の支給額が平均支給額を超えているのは4割未満です。実際には1,000万円を割っているケースも珍しくないでしょう。
役員退職規定を作成して支給基準や根拠を明確にした方が社員の賛同を得やすいと考えられます。
役員退職金(役員退職慰労金)の支給時期はいつまで?
定款や株主総会の決議で支給金額が確定すれば、退職前に役員退職金を支給することは可能です。
退職後すみやかに支給されるのが通例ですが、諸事情によって支給時期がずれ込むこともあります。税務上は退職からおおよそ3年以内に支給額が確定すれば退職金として処理できるとされています。ただし、意図的に支給時期を後ろ倒しにすると利益調整とみなされる可能性があります。
役員退職金(役員退職慰労金)の分割払いや現物支給は可能?
原則は一括支給とされていますが、以下のような事情であれば、おおよそ3年以内での分割払いも認められています。
- 分割払いについて株主総会などで決議されていること
- 分割に合理的な根拠があること
- 分割が長期にわたるものではないこと
なお、役員退職金は長期年金形式での支給も認められており、税務計算上は年金として処理します。また、受給者との合意があれば株式や不動産など現物支給も可能です。
まとめ
役員退職金の処理は、一般従業員の退職金よりも高度な税務知識や判断が求められます。分からないことがあれば、税理士や会計士などの専門家にご相談ください。
当事務所では、法人設立や融資相談のほか、全般的な税務・補助金に関する相談を受け付けております。ご希望の方は、下記ダイヤルまたはお問い合わせフォームまでご連絡ください。