税務調査における推計課税(すいけいかぜい)とは?適用要件や計算方法について
白色申告は青色申告に比べて記帳や書類作成などが簡便であることから、特に個人事業主や小規模な事業を営む方のなかには白色申告を選択している方も多いでしょう。ただし、帳簿に記載された金額を裏付ける資料が十分でないと推計課税が適用されることがあります。本記事では、推計課税の適用要件や計算方法について解説します。
推計課税とは?
推計課税とは、所得税や法人税などの課税根拠となる資料が不足している場合に、特定の計算方法を用いて課税を行う仕組みです。なお、推計課税における法的根拠の条文は、法人税法第131条および所得税法第156条になります。
所得税は収入から必要経費を差し引いた金額に、法人税は収益のうち益金から損金を控除した金額に対して課税されます。税務調査が実施される際に、この必要経費を証明する資料やデータを紛失・破棄していると推計課税が適用される恐れがあります。なお、税務調査は個人も対象としており、事業規模の小さな個人事業主でも推計課税が適用される場合があります。
推計課税と実額課税の違い
同業他社や業界平均といった間接的な資料を基準に、納税者の所得を推計して課税額を決定する推計課税に対して、実額課税は納税者が提出した帳簿や証拠書類に基づき、実際の収入や支出を正確に把握して課税額を決定する方法をいいます。
推計課税の適用要件
推計課税の適用要件は大きく以下の3つが挙げられます。
青色申告者ではない
青色申告では、原則として複式簿記が求められ、その裏付けとなる添付書類や保管すべき帳簿類についても厳密に定められています。
それに対して、白色申告は簡易な単式簿記が認められている反面、特別控除が適用されません。また、複式簿記と比べると記載漏れや不明な入出金が発生しやすいため、推計課税の対象となるリスクが高まります。
さらに、青色申告の要件を満たさなくなってしまうと、青色申告の承認が取り消される可能性があります。この場合、最大7年分を遡って追徴課税を受ける恐れがあるため注意しましょう。
税務調査を拒否した
税務調査には任意調査と強制調査の2種類があり、多くが後者に該当します。しかし、税務調査官は「国税通則法第74条の2」に基づき、納税者に対して質問や検査を行う質問検査権を有しています。
そのため、任意調査であっても納税者は調査に協力する義務があります。正当な理由なく調査を拒否・妨害すると、重加算税の賦課だけでなく、1年以下の懲役または50万円以下の罰金などが科せられる可能性があります。
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帳簿書類がない
たとえ、納税者に悪意がなかったとしても税務調査の際に提出を求められた書類を紛失している場合には、推計課税の対象となる可能性があります。
推計課税が適用されると、実額課税よりも課税金額が増加することが一般的です。例えば、赤字にも関わらず証明書類や帳簿を紛失した場合、調査官によって同規模の同業種の利益率を基準に課税額が算定されてしまいます。その結果、高額な税負担を強いられるケースも考えられます。経営実態を正確に反映した帳簿を作成し、領収書などの証拠資料を適切に保管しておくことが重要です。
推計課税の注意点
推計課税が適用されてしまうと、実際の所得よりも高額な課税がされたり、仕入税額控除が適用されなかったりといったデメリットが発生します。
消費税の仕入税額控除を受けられなくなる
消費税の仕入税額控除とは、商品の販売に伴う消費税から仕入れにかかる消費税を差し引く仕組みです。 この控除が適用されるには、原則として適切に帳簿や関連書類を保管することが条件となります。
例えば、商品の売上高が1,000万円、仕入高が600万円で消費税率が8%の場合は以下のように計算されます。
<納付消費税額の計算式> 80万円(1,000万円×8%)-48万円(600万円×8%)=32万円 |
一方で、仕入税額控除が適用されない場合、80万円をそのまま納税しなければなりません。これは小規模事業者にとって非常に大きな税負担となる可能性があります。
実際よりも多く所得税額が推計される
推計課税は、推計に基づいて課税額を決定します。そのため、実際の売上高が700万円でも推計によって1,000万円とみなされたり、領収書の不備が原因で経費が認められずに赤字を証明できなかったりする事例が発生します。 ただし、調査官が提示した計算方法よりも合理的な算定方法を提案することは可能です。
推計課税の計算方法
推計課税の計算方法としては、効率法・比率法・純資産増減法などがあります。
効率法
売上や経費について単価を割り出し、それをもとに所得を計算する方法です。推計された利益から人件費や光熱費といった固定経費を差し引いて最終的な利益を試算します。一人あたりの平均売上単価が1,500円、必要経費が700円、1日の客数が100人とすると、次のような試算ができます。
総売上推計額/日:15万円 総経費/日:7万円 利益/日:8万円 |
これに営業日数を乗じると、年間の推計利益を算出できます。
比率法
同業者比率法とも呼ばれ、立地条件や事業規模が類似している同業者の申告内容を基準に売上や経費を算定する方法です。この方法が適用されると、赤字だったり、売上が少なかったりした場合であっても、大きな税負担を強いられる可能性が高くなります。
純資産増減法
期首と期末における資産と負債の差額をその年の純資産の増加額とみなし、所得金額を算出する方法です。
純資産は、資産から負債を差し引いた自己資本などの正味財産を指し、負債は金融機関からの借入など、他人資本を意味します。また、期首と期末の資産や負債を比較して純資産の増加を求める推計方法に「資産負債増減法」もありますが、こちらは純資産の増加額そのものを求めることを目的としています。
推計課税の違法性を主張する「実額反証」とは?
推計課税は調査官の裁量に委ねられている面が多く、必ずしも経営実態を反映していないケースもあります。納税者側の反論手段としては審査請求や訴訟手続きがありますが、その際には帳簿などを基にした実額による反論を準備しなければなりません。この立証責任は、自己に有利な証拠を提出しやすい納税者にあります。また、立証の程度については以下に示すとおり「合理的な疑いを容れない程度」とされています。
- 納税者の主張する収入金額が、すべての取引先からのすべての取引について捕捉漏れのない総収入金額であること
- 収入と対応する必要経費が実際に支出されたこと
- 直接費用および間接費用については三位一体説によって証明が可能であること
参照:推計課税に関する一考察-国外資産を把握する制度の進展と課税の在り方-
まとめ
推計課税の適用を回避するには、日頃から帳簿を正確に記帳し書類を適切に保存することが大切です。万が一、会計処理や税務調査に不安な点や不明な点があれば、税理士や会計士などの専門家にご相談ください。当事務所では、確定申告や節税対策だけでなく、税務調査や融資など幅広く税務・補助金に関する相談を受け付けております。ご希望の方は下記ダイヤルまたはお問い合わせフォームまでお気軽にご連絡ください。