簡易課税制度とは|一般課税との違いや計算方法についてわかりやすく解説
簡易課税制度とは、年間の課税売上高が5,000万円以下の中小企業を対象に制定された税制度です。
うまく活用すれば、税負担を軽減することができます。
本記事では、簡易課税制度の仕組みや一般課税の違い、活用方法について解説します。
簡易課税制度とは
簡易課税制度とは、預かった消費税の金額に「みなし仕入れ率」を乗じて計算する方法を指します。
通常、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた金額を納税する「一般課税」で計算されますが、この方法だと支払に関する書類の保管や把握などが必要となります。
このような事務負担の軽減を図るために1989年に作られたのが簡易課税制度です。
簡易課税と一般課税(本則課税・原則課税)の違い
一般課税は、本則課税または原則課税とも呼ばれます。
一般課税では受け取った消費税から実際に支払った消費税を差し引いて計算します。
計算を行うには、課税売上と非課税売上を区分し、また仕入れに関しても課税売上、非課税売上に対応するものとして分類が必要となります。
簡易課税は、預かった消費税の金額さえ把握できれば良いため、そこまで手間がかかりません。
簡易課税制度を適用する場合、提出期限はいつまで?
適用する事業年度が始まる前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出しなければいけません。
なお、新設法人の場合には、開業した課税期間の末日までが締め切りとなります。
ただし、災害や事故などやむをえない事情(宥恕規定)にみまわれた場合は、特例措置によって期限を過ぎても提出することができます。
簡易課税制度の要件
簡易課税制度の適用を受けるには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
基準期間における課税売上高が5,000万円以下
基準期間内において、非課税取引と不課税取引を控除して課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度の適用を受けられます。
基準期間とは、納税義務の判定基準となる期間のことで、個人事業であれば前々年、法人であれば前々事業年度になります。
「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する
前述したように、課税対象となる事業年度が始まる前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。
調整対象固定資産を取得していない
調整対象固定資産、高額特定資産や自己建設高額特定資産の仕入れ等、高額特定資産である棚卸資産等について調整措置の適用を受けた場合には、一定の期間、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できないため、簡易課税制度の適用を受けることができません。
簡易課税制度のメリット
簡易課税制度の適用をするメリットとしては、大きく以下の3つが挙げられます。
事務作業を簡略化できる
簡易課税では、預かった消費税の金額に「みなし仕入れ率」を乗じて計算するため、一般課税(本則課税・原則課税)に比べると事務作業が少なくなります。
また、売上見込みが立っているのであれば、ある程度、納税額の予測も可能となります。
税負担を軽減できる
90%事業区分によって「みなし仕入れ率」が決められています。
そのため、一般課税(本則課税・原則課税)よりも、納税額が安くなることがあります。
事業区分 | みなし仕入率 |
第1種事業(卸売業) | 90% |
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) | 80% |
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業および水道業) | 70% |
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業および第6種事業以外の事業) | 60% |
第5種事業(運輸通信業、金融業および保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) | 50% |
第6種事業(不動産業) | 40% |
簡易課税制度のデメリット・問題点
税負担や事務作業を軽減できる一方で、いくつかデメリットも存在します。
多業種で事業展開をしている場合は事務作業が増える恐れも
簡易課税制度を活用すると、事務作業を簡略化できるとお伝えしましたが、多業種で事業展開をしている場合は事務作業が増える可能性があります。
というのも、それぞれの事業を区分して「みなし仕入れ率」を算出する必要があるためです。
ただし、下記の特例に当てはまる場合は、より簡便的な方法による計算が可能です。
- 2種類以上の事業を営む事業者で、1種類の事業の課税売上高が全体の課税売上高の75%以上を占める場合は、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上に対して適用できる
- 3種類以上の事業を営む事業者で、特定の2種類の事業の課税売上高の合計額が全体の課税売上高の75パーセント以上を占める事業者については、2業種のうちみなし仕入率の高い方の事業に係る課税売上高についてはそのみなし仕入率を適用し、それ以外の課税売上高は、2種類の事業のうち低い方のみなし仕入率を適用できる
簡易課税の適用から2年間は一般課税へ変更できない
課税売上高が5,000万円以上を超えた場合を除き、原則2年間は一般課税への切り替えができません。
2年経過したのち、「簡易課税制度選択届出書」を提出してはじめて、一般課税への変更ができます。
簡易課税制度を適用した際の計算方法
ここでは、簡易課税制度を適用した際の計算方法について、具体例を用いて解説します。
計算式は下記のようになります。
計算方法
1.差引税額:売上にかかる消費税(売上高×7.8%(国税))-仕入にかかる消費税(売上高×7.8%(国税)×みなし仕入れ率)
2.地方消費税:差引税額×22/78
3.納税額:差引税額+地方消費税
計算例
卸売業のケース
1.差引税額:売上にかかる消費税(3000万円×7.8%)-仕入にかかる消費税(3000万円×7.8%×90%)=23万4000円
2.地方消費税:23万4000円×22/78=66000円
3.納税額:23万4000円+66000円=300000円
簡易課税制度の手続き方法
簡易課税制度の適用を受けるのであれば、事業年度が始まる前日までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を作成し、所轄の税務署へ提出しなければいけません。
課税売上高が5,000万円以上だと簡易課税を選択できないため、まず課税売上高の確認をしましょう。
簡易課税制度をやめる場合は?
簡易関税制度の適用を外したい場合は、「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を事業年度が始まる前日までに提出する必要があります。
なお、簡易課税制度の適用から2年以内は選択不適用届出書の効力が働かないため、注意が必要です。
まとめ
簡易課税制度は、事務作業を簡略化できたり、税負担を軽減できたりするメリットがあります。
しかし、事業区分によっては一般課税の方がお得になることもあり、また、一度適用してしまうと2年間は変更できないため、入念に導入を検討しましょう。
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