川村会計事務所|大阪・堺の税理士事務所

発生主義と現金主義の違いや、切り替え・変更の方法をわかりやすく解説

会計処理をするにあたって、発生主義と現金主義のどちらが自社に適しているか悩んでいる経営者もいらっしゃるのではないでしょうか。その判断をするには、まずは両者の違いやメリット・デメリットについて理解することが重要です。本記事では、発生主義と現金主義の違い、また切り替える方法についても解説します。

発生主義とは?

発生主義とは、費用や収益が発生したタイミングで会計帳簿に記帳する方法です。日本国内における会計の基本ルールとして、企業会計原則が定められています。その企業会計原則のうち、損益計算書原則において発生主義が明記されています。

多くの企業で利用されている「青色申告」では、原則として費用は発生主義に基づいて記帳しなければなりません。例えば、10万円の商品を掛けで仕入れ、翌月現金で支払った場合の仕訳は以下のようになります。

決済タイミング

借方科目

金額 貸方科目 金額

商品を仕入れた時点

仕入高

100,000円

買掛金

100,000円

代金10万円を支払った時点 買掛金 100,000円 現金 100,000円


発生主義では収支をスムーズに把握でき、
納税予測も立てやすい利点がある反面、勘定科目が複雑になり、入力ミスや抜け漏れが発生しやすいデメリットもあります。

現金主義とは?

現金主義は、実際に金銭のやり取りが発生した時点で費用や収益を計上する方法です。

キャッシュの動きのみに注目するため、経理初心者でもわかりやすい反面、掛取引や未払金などを把握しにくいデメリットがあります。そのため、支払いが年度をまたぐと当期分の正しい期間損益が算出できず、現在は小規模事業者かつ青色申告者に例外的に認められているのみです。上記の取引を現金主義で仕訳すると、以下のようになります。

決済タイミング

借方科目

金額 貸方科目 金額

商品を仕入れた時点

仕訳なし

仕訳なし

仕訳なし

仕訳なし

代金10万円を支払った時点 仕入高 100,000円 現金 100,000円

現金主義が認められる要件

現金主義が認められているのは、以下の要件を満たす事業者のみです。

  1. 青色申告者であること
  2. 小規模事業者であること
  3. 期限までに「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」を提出していること

小規模事業者とは、事業所得と不動産所得の合計額が300万円以下の事業者を指します。この場合、事業専従者の給与は経費に参入せずに計算した額を基準とします。また、3の「現金主義による所得計算の特例を受けることの届出書」は初めて現金主義による所得計算の特例を受ける場合のみ提出します。一度申告すれば、以後は原則として自動的に同制度が適用されます。

発生主義・現金主義・実現主義の関係性

発生主義・現実主義・実現主義の違いは、費用や収益の計上タイミングの違いにあります。計上タイミングの違いに伴い、用いる勘定科目も異なります。

発生主義と現金主義の違い

発生主義と現金主義で記帳するタイミングは、下図のように異なります。

発生主義 現金主義 どっち

例えば、A社がB社から1万円の消耗品を購入し翌月現金払いを約束した場合、A社の仕訳は以下の2通りが考えられます。

【発生主義】

決済タイミング

借方科目

金額 貸方科目 金額

商品を仕入れた時点

消耗品費

10,000円

未払金

10,000円

翌月支払った時点 未払金 10,000円 現金 10,000円

【現金主義】

決済タイミング

借方科目

金額 貸方科目 金額

商品を仕入れた時点

仕訳なし

仕訳なし

仕訳なし

仕訳なし

翌月支払った時点 消耗品費 10,000円 現金 10,000円

発生主義と実現主義の違い

一方上記の例では、B社は収益があったことになります。この際B社は、A社との取引が確定した時点で、次のような仕訳が可能になります。

発生主義 実現主義

この場合、実現主義では取引が確定した時点で会計処理を行います。B社の場合、A社に商品を提供したときと、A社からの支払いが完了した時点の2回にわたって会計処理を行うわけです。

B社からみた場合、発生主義では万が一、キャンセルが生じると取引の処理が不安定になってしまいます。一方、実現主義ではそのデメリットが回避でき、会計処理の正確性が増します。この場合のB社における会計処理は次のようになります。

【実現主義】

決済タイミング

借方科目

金額 貸方科目 金額

商品納品時

売掛金

10,000円

売上

10,000円

翌月入金された時点 普通預金 10,000円 売掛金 10,000円

もっとも、発生主義・実現主義ともに、実際のキャッシュの動きと帳簿上の数字にずれが生じることがあります。そのため、企業は別途キャッシュフロー計算書や資金繰り表を作成するのが一般的です。

発生主義と現金主義はどっちを選ぶのが良い?

特別な理由がない限り、発生主義に基づいて会計処理するのがおすすめです。現金主義では、青色申告特別控除、期間損益処理の場面、前受金処理の場面などにおいて、以下のようなリスクが生じます。

ポイント1:青色申告特別控除について

現金主義を利用していると、65万円や55万円の青色申告特別控除が受けられず、10万円の控除に留まってしまいます。

青色申告特別控除の提供条件には、複式簿記による記帳および複式簿記により作成した貸借対照表と損益計算書の提出が義務付けられています。現金主義のままだと控除の最大枠が利用できないため、節税につなげるのであれば、発生主義が前提の複式簿記で記帳するのが得策です。

ポイント2:期間損益の把握

現金主義では実際の現金の授受を起点とした処理を行うため、適切な期間損益を把握できないことがあります。企業間取引では掛取引を行うケースも多く、現金主義では期末をまたいだ際の期間損益を正しく把握できません。

また、2021年4月1日から新収益認識会計基準が適用されています。現在は、大会社や上場企業においては強制適用されていますが、中小企業や小規模事業者は今までどおりの会計処理で問題ないとされています。将来的に上場などを検討しているのであれば、現金主義のままだと切り替えの煩雑さが予想されるでしょう。

ポイント3:前受金の定義

前受金とは、商品やサービスを提供する前に代金の一部もしくは全てを先に受け取った場合に用いる勘定科目です。実際の取引の場面では、前金・手付金・頭金などの名称を用いることが多いです。現金主義では、取引完了していなくても現金が動いたタイミングで記帳をします。ただし、前受金をもらった場合は、あくまで一時的な計上となります。取引が完了した際には売上に振り替える必要があります。

発生主義と現金主義の混在はダメなのか?

発生主義と現金主義の混在は、できるだけ避けるのが無難です。いずれかを選択するのであれば、会計処理の原則とされている発生主義に統一しましょう。

例えば、1月期首で12月期末だとして、12月に3万円分の商品仕入れを行い、同月にその仕入商品を7万円で販売したケースを想定してみましょう。この場合、現金主義では売上分について当期計上できないため、3万円の赤字が発生します。

また、両者の手法を混在してしまうと二重計上のリスクもあります。万が一、税務調査で不当に利益を得ていたと判断された場合には、追徴課税対象となる恐れも考えられます。
仮に、それらのミスを回避したとしても、手法が混在すると未決済勘定の確認が必要になり、会計処理の手間が増えるため、計上方法の統一をおすすめします。

現金主義から発生主義への切り替えや変更を行う方法

現金主義から発生主義に変更するには、まず変更タイミングの時期を決定します。期末か期首に行うのが望ましいでしょう。期中で行うと、月次での前年比較がしにくいなどのデメリットがあります。次に、元情報の整理を行い、売上・原価・販管費など項目ごとに発生主義に基づいた期首残高を算出します。

特に、変更年の期末月の処理については、注意しなければなりません。例えば、1月期首12月期末で12月に掛取引を行い、翌月入金予定があったとします。この場合、12月分の掛取引について、そのままでは変更年・翌年のいずれの申告でも計上できません。この事態を回避するには、翌年の申告の際に1月入金の売上を追加計上します。結果的に変更の年は13ヶ月分計上しなければならず、税負担が増えるケースも想定されます。

まとめ

現金主義から発生主義に切り替える際には、考え方や計算方法、用いる勘定科目が大きく異なります。不明な点がある方は、ぜひ税理士や会計士などの専門家にご相談ください。

当事務所では、法人設立や融資相談のほか、全般的な税務・補助金に関する相談を受け付けております。ご希望の方は下記ダイヤルまたはお問い合わせフォームまでご連絡ください。

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