中小企業向けの賃上げ促進税制はいつまで?改正のポイントをわかりやすく解説【2024年・令和6年度最新版】
従業員の定着率改善に有効な手段として考えられるのが「賃上げ」。
とはいっても資金繰りに余裕がないという企業も多いでしょう。従業員の賃上げを支援する制度として2013年から始まったのが「賃上げ促進税制」です。創設当初は3年の期間限定の制度でしたが、そこから毎年度延長が行われ、2024年も延長・制度拡充が発表されました。本記事では、中小企業向けに「賃上げ促進税制」の概要や改正ポイントを解説します。
中小企業向けの「賃上げ促進税制」とは?
賃上げ促進税制とは、大企業および中小企業が、一定の要件を満たしたうえで、前年度よりも給与額を増加させた場合に、増加分の一部が税額控除される制度です。
2024年4月からは新制度への切り替えを予定しており、今回の改正において、「大企業向け」「中堅企業向け」「中小企業向け」の3部門が創設されました。また、従来よりも制度の要件が緩和・拡充され、より利用しやすい制度になっています。
改正内容 |
など |
賃上げ促進税制と所得拡大促進税制の違い
所得拡大促進税制は賃上げ促進税制の前身にあたる制度で、2022年4月に現名称に変更されました。新年度から適用される「賃上げ促進税制」と所得拡大制度との違いは、以下のようなものが挙げられます。
- 最大控除率が25%から45%に拡大
- 中堅企業枠の新設
- 教育訓練費の増額の明細書の添付義務は保存義務に緩和
- 上乗せ要件に必要とされていた経営力向上要件が不要に
- 子育てとの両立・女性活躍支援についての上乗せ要件枠の新設
賃上げ促進税制の適用対象
青色申告書を提出しており、かつ以下に該当する中小企業が適用対象となります。
1.以下のいずれかに該当する法人
2.常時使用する従業員数が1,000名以下の個人事業主 3.協同組合など(中小企業等協同組合、出資組合である商工組合など) |
賃上げ促進税制における改正のポイント【2024年・令和6年度】
令和5年度の賃上げ促進税制と比較すると、要件の新設や緩和・拡大がみられます。その結果、従来よりも申請数が増えることが予想されます。
措置期間が3年延長
従来は措置期間が2年間でしたが、新制度では3年間に延長されました。期間は、2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する各事業年度が対象となっています。
後述する5年間の税額繰越控除制度と合わせると、企業・雇用者双方にとって長期的にメリットを得やすいと考えられるのでしょう。さらに、申請期間に余裕が生まれたことで、前年度に実績のない新規設立の法人も利用しやすい制度といえます。
税額控除できなかった金額を5年間繰り越し可能に
今までは、年度を跨いで控除繰越を行うことが認められていませんでしたが、新制度では最大5年間までの繰越が可能となりました。この制度により、赤字の企業も適用を受けられるようになります。
中堅企業枠の新設
中堅企業とは、青色申告書を提出している従業員数2,000人以下の企業または個人事業主を指します。3%賃上げすると10%の税額控除が、4%賃上げすると25%の税額控除が適用されます。
教育訓練費における適用要件の緩和
教育訓練費における税額控除率は、従来は継続雇用者の給与等支給額に対して前年度比+10%と定められていました。この要件が5%まで引き下げられたことで、教育訓練費の増加率がそれほど大きくなくても、要件を満たせるようになりました。
また、旧制度では上乗せ要件を適用する場合に、自由様式ながらも教育訓練実施を証明する明細書の添付義務がありました。一方、新制度では提出義務ではなく保存義務へ変更になっています。
子育て両立支援・女性活躍支援企業への上乗せ要件の追加
今回の改正で、子育て両立支援・女性活躍支援への上乗せ要件が新たに追加されました。中小企業では、子育て両立支援の指標「くるみん」の取得、もしくは女性活躍支援の指標「えるぼし」の2段階目以上の認定が要件となります。控除率は最大5%。
基本控除率に加え、教育訓練費の上乗せ枠、女性活躍・子育て支援枠を全て利用すると、最大45%の税額控除が受けられ、節税効果が大きいといえます。
賃上げ促進税制でよくある質問について
最後に、賃上げ促進税制の申請や利用でよくある質問をまとめています。ぜひ参考にしてみてください。
賃上げ促進税制の手続き・申請方法は?
賃上げ促進税制では、事前の申請や届出の必要はありません。ただし、以下の書類を用意しておく必要があります。
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確定申告書を記入する際には法人税の税額控除分を反映させ、指定された書類を添付して管轄の税務署に提出してください。
賃上げ促進税制で必要な添付書類はある?
確定申告書を提出する際には、法人税申告書に加えて以下の明細書を添付します。
- 適用額明細書
- 対象者の給与等支給増加額や控除を受ける金額などを記載した明細書
また、先に述べたように、教育訓練実施を証明する明細書の提出は義務付けられていませんが、以下の情報を記した明細書の保管が定められています。
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賃上げ促進税制で【通勤手当・退職金・役員報酬】は税額控除の対象になる?
本制度上の給与等とは、社員に支払う金銭のうち下記を指します。
1.俸給・給料・賃金・歳費及び賞与 2.1の性質を有する給与 |
2については、役員報酬や残業手当など各種手当も含まれます。また、所得税法上では非課税とされている通勤手当や宿直手当などは給与等に含まれません。ただ、継続適用の要件を満たし、かつ労働基準法で定める賃金台帳に記載された給与や手当等のみを選ぶ場合は、例外的に含めることができます。
一方、退職金や出張手当などは給与等に含まれないため、注意してください。
まとめ
2024年4月1日から実施される賃上げ促進税制は、従来のものから大幅に変更しています。賃上げ促進税制の導入や活用について不明な方は、ぜひ税理士や会計士などの専門家にご相談ください。
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